
【雑学】元カーナビ開発者が解説!知っているとちょっと得するカーナビのハナシ
知っていても劇的に役に立つ!というわけでもないカーナビの雑学が中心となりますが、ちょっとだけでも役に立ちそうな内容も織りまぜてご紹介します。たくさんのセンサーを複合的に利用する車載カーナビは、内部で非常に複雑な処理を行っています。元カーナビ開発を行っていた筆者が、その内部の動作についていくつかピックアップしてご紹介します。

免許取得歴:20年以上 今乗っている車種:Nissan Skyline(中古で購入) …
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- 投稿日:2017-2-15
目次
面白くて、知っているとちょっと得する!カーナビの内側のハナシ!
筆者は以前10年ほどカーナビ開発の仕事をしてきました。
そんな中で、あまり知られていない内部の処理について、面白そうなトピックをいくつかご紹介したいと思います。
1990年代に主な基礎技術が確立したカーナビですが、その後はハードウェア性能の向上や計算処理能力の向上と共に、地道な進化が遂げられています。
カーナビは、エンジンを始動してすぐの発進は苦手!
みなさんは、エンジンを始動して、どのくらいしてから車を発進させますか?
「会社の始業まで時間が無い!」
「急いで帰らないと、ドラマの時間に合わない!」
なんていうときに、エンジン掛けてすぐに車を発進させてしまうことはよくありますよね?
実はこのときカーナビは、【自車位置】を見失ってしまいそうな状況になっているのです。
エンジンを始動してから「10秒程度」待ってスタートするとよいですよ!
実はカーナビは、車を停車させてキーオフするときに、地図上のどの位置にどの向きで停めたかを内部に保存しておきます。
そして、次回、キーを回してエンジン始動時にナビに電源が入ったとき、その記録しておいた位置から出発するという想定でナビのソフトが動きだすのです。
ところが、エンジンを掛けてからカーナビが起動完了するまでの時間というのは、意外と長い(遅い)のです。
みなさんがパソコンを起動するときを思い浮かべてください。電源ボタンを押してから使えるようになるまで、1分くらいかかりませんか?
カーナビはここまでひどくはありませんが、相当早い機種でも5~6秒、遅いものは20秒以上かかります。
そのためカーナビが完全に起動する前に車が動き出してしまうと、内部で位置ずれが起きてしまうのです。
そのため起動直後、いきなり誤った地図上の位置に自車を表示してしまうなんていうこともあります。
これが、家の駐車場から出発するときであれば、ユーザーは道を熟知しているのであまり問題にはならないのですが、出先の地下駐車場から出発するときだとちょっと大変です。
GPS信号も受信できませんから、駐車場の出口でとんでもない方向を案内することになります。
そんなときのためのカーナビ内部の工夫
でも実際はそうはならないように各社工夫をしています。
イグニッションがオン(エンジンが始動)にされたときに、カーナビの内部では即座にジャイロセンサーの出力値をしばらく貯め込んでおくのです。
※ジャイロセンサー…加速度センサーとも呼ばれ、回転や向きの変化を検知します。スマホにも搭載されています。
そしてその貯めた情報を、遅れて起動完了したカーナビ用マイコン(コンピュータ)に即座に送り込み、現在の自車位置を修正するのです。
特に土地勘の無い場所にある地下駐車場から出発するときは、少なくともエンジンを掛けてから10秒程度は待ってから出発してください。
カーナビによっては、出口案内などでミスが少なくなるかもしれません。
カーナビはどんどん学習して賢くなります!
カーナビは結構かしこく学習します。
カーナビの設定画面などを見てみると、学習結果を「クリアする/しない」といったスイッチがついていますが、ここでいう学習とはこの部分のことです。
タイヤの直径がわかる、カーナビの「車速パルス信号学習」がすごい!
実は学習といってもいろんな要素があるのですが、まずは「車速パルス信号の学習」について紹介します。
車にカーナビをインストールすると、車速パルスと呼ばれるタイヤの回転信号が車両から配線ケーブルを通してカーナビに送られます。
これによってカーナビは、タイヤがいつ/どのくらい回転したかを知ることができます。
これは、タイヤの回転に応じて出力される信号ですが、1回転辺り何個のパルス信号がでるのかは車の車種によって異なります。
また、タイヤがパルスを出すたびに、どのくらい車が前に進むのかも、最初は全くわからないのです。
では、どうやって学習するのでしょうか?
答えは「地図と見比べます。」
GPS信号が正常に受信できて、直進道路を走る機会を見つけて学習が行われます。
地図上で見れば、車両が走行した距離がわかります。その間にカウントされた車速信号の数を数えておきます。
あとは、走行距離÷カウント数 =1パルス(信号)辺りの走行距離
こういった学習を定期的にやることによって、常に最新のタイヤの様子を学習しています。
タイヤは空気圧が変わったり、摩耗したりすることによって、直径が変化し、1回転辺りの進む距離が異なってきます。
こういう微妙な変化を察知するため、学習は定期的に実施されます。
こうやって補正されたセンサー情報を利用しますので、GPS信号が受信できないような場所においても、車がどのくらい前進・後退したのかは、かなり正確にわかります。
車速パルスを学習することで、なにが便利になるの?
この学習が正確にできていれば、GPS信号が受信できない地下駐車場の中や、トンネルの中であっても、かなり正確に地図上の位置を地図上に示すことができるのです。
※車が後退する場合も車速信号が送られます。
しかしながらこの車速信号を見ただけでは前進なのか後退なのかはわかりません。車をバックギアに入れたときには、車両の後退ランプが点灯しますが、これを制御する車両の信号が、カーナビの取付け時に接続されます。
このバック信号と車速信号を組み合わせ、車両がどのくらいの距離をバックしたのかもカーナビは検出できます。
カーナビは「取付け角度」も学習します!
カーナビは、車がハンドルを切って曲がったかどうかを知るために、角速度センサーと呼ばれるセンサーを使っています。
このセンサーは、回転力が発生すると、回転角の速さを電圧値として出力するものです。
ちょっと難しいですが、この回転角度を利用(時間で積分)すると何度車が曲がった(回転した)のかわかるというものです。
一方、カーナビを取付けるときに、車によっては角度が斜めにとりつけられる場合があります。
水平に取付けられればわかりやすいのですが、奥側が下がったり、手前が下がったりというように斜めに設置されるケースがあるのです。
車の水平方向に対して角度がついていると、基板にハンダづけされているセンサーの回転角と車の回転角度にズレが生じますので、思ったのと異なる角度が出力されてしまうのです。
そしてここにも、学習の仕組みが入っています。
交差点等を曲がるときに、道路の「なす角(角度)」は地図を見ればわかりますのでそれを利用します。
実際に曲がった角度と、角速度センサーの電流の出力を合わせるように内部で補正するのです。
取付け角度を学習することで、なにが便利になるの?
この学習によって、水平から角度がついて車にインストールされた場合でも、正しく車の回転角度を認識できるようになります。
この学習が正確にできると、GPS信号を受信できないような地下駐車であっても、正確に曲がった方向を認識することができます。
先程学習した「移動距離」「前進か後退か?」「曲がった方向」が正確にわかれば、しばらくの間はGPS信号が受信できなくてもほとんど迷うことはありません。
GPS信号の届かない長いトンネルの中や、やや複雑な地下駐車場の中、さらにはそこから出るときまでの間、正確に案内を続けることができます。
※トンネルや地下駐車場から出た後は、GPS信号を受信できるので、自車位置の小さなズレもすぐに自動的に補正されます。
このように、学習してカーナビは、どんどん賢くなっていくのです。
世界的にみて、日本の地図データはとても大きい!
車が通れる道路があまり無いような未開の土地は別ですが、全世界の多くの国でカーナビが作られ、利用されています。
カーナビがあるということは、その国のデジタル地図が存在するということです。
では、その地図のサイズはどのくらいの大きさのものなのでしょうか?
■カーナビの地図はおおよそ以下のような構成で作られています
1)階層型道路ネットワーク(ルート探索、マップマッチング用)
2)目的地設定用の施設データベース
3)ガイダンス用案内図データベース(音声含む)
4)市街地図表示用データベース(主に地図表示用)
基本はこの4つ。
日本の地図データはなぜ大きいの?
この中で日本の地図データは、4のデータ(市街地図表示用データベース)がとても大きいのです。
米国や欧州は国土は大きいのですが、日本の様な詳細な市街地図というのはごく一部にしかありません。(あってもあまり使わないので収録されていないというのが正しいです。)
そのため、欧州版カーナビは、国別のモデルではなく、欧州全体で1つのモデルにまとめることができます。
日本は小さな国土ですが、市街地図がとても大きいので、欧州全域版と地図データのサイズがほぼ同じになってしまいます。
逆に市街地図を搭載しないカーナビを作ると、一気にメモリを小型化できます。
安いポータブルナビの地図は大きいの?
よくある1万円未満のポータブルカーナビは、メモリサイズを小さくするために、市街図を削除したりしています。
そのため、詳細の地図はありません。その代わりに、安く販売できるのです。
上の1)階層型道路ネットワーク の部分だけのサイズは数百M(メガ)程度。
2)目的地設定用の施設データベースは収録件数によって大きく左右されますが、おおよそ1G(ギガ)位のメモリーがあれば十分にカーナビを作ることができます。
市街図も含めると、その分のメモリーも増やさなければならないばかりか、地図データベースの値段も上がりますので、売価もだいぶ高くなってしまいます。
日本のカーナビはとっても優秀
カーナビ内部の動作について、面白そうなものをいくつかピックアップして紹介しました。
たくさんのセンサーを使った複雑な処理を行っているカーナビですが、特に日本のカーナビは、特殊な道路環境のため、とても高度な処理をこなしています。
今回は学習と地図データについてご紹介しましたが、まだまだカーナビは奥が深いです。
他のトピックは、また次の機会にご紹介したいと思います!
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